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東京地方裁判所 平成11年(レ)402号 判決

主文

一  本件控訴を却下する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

一  控訴の適否について

1  控訴人の主張

(一) 原審においては、控訴人の住居所が不明であるとして、控訴人に対する訴状副本及び呼出状等の送達は公示送達の方法によって行われ、原判決の正本も、公示送達の方法により言渡期日の翌日である平成六年一月二八日に控訴人に送達された。しかし、控訴人は、以下のとおり、その責めに帰することができない事由により本件訴訟の提起、審理及び判決の言渡しを全く知ることができず、右判決正本の送達の日から二週間以内に控訴を提起することができなかった。

(1)  控訴人が住民票を移転しなかった事情

控訴人は、昭和五六年一〇月に東京都墨田区江東橋五丁目一二番二号を住所(以下「旧住所」という。)として届け出たが、本件訴訟が提起された平成五年には旧住所に居住しておらず、新たな住所の届出もしなかったため、同年八月、住民票上の旧住所の記載は、職権で消除された。しかし、控訴人は、昭和五七年末ころ、経営していた印刷工場を経営不振のため閉鎖し、新聞販売店に住み込んで新聞配達の仕事をするようになったが、勤務する新聞販売店が変わることもあり、折を見て安定した別の仕事に就職したいと考えていたことから、新たな住所の届出をしなかったものであり、殊更に本件訴訟の訴状等の送達を回避するために所在を明らかにしなかったのではない。

(2)  本件訴訟を予測できなかったこと

被控訴人が本件訴訟で支払を求めている貸金は、昭和五七年一一月一〇日に締結された消費貸借契約(以下「本件消費貸借契約」といい、これに基づく債務を「本件貸金債務」という。)に基づくものである。本件貸金債務の分割返済金の最終弁済期は、昭和五八年四月二五日であり、被控訴人は、それから一〇年以上経過した平成五年九月三〇日に本件訴訟を提起した。被控訴人は、その間何らの時効中断措置も採っていなかったことから、控訴人は、当然本件貸金債務が時効消滅したと考え、本件訴訟提起を予想しなかった。

また、元金がわずか五万円と少額であるため、控訴人において被控訴人があえて訴訟を提起することを予測することは困難であった。

したがって、控訴人が被控訴人に対して転居先の住所を連絡しなかったとしても、控訴人の責めに帰すべき事由には当たらない。

(3)  被控訴人の調査不足

被控訴人は、本件訴訟が時効期間満了後に提起されたものであり、控訴人が出頭すると消滅時効が援用されてしまうことから、公示送達申立時に控訴人の住居所の調査を十分にしなかった。このことは、控訴人の実兄が、本件貸金債務を連帯保証しており、現在に至るまで契約書記載の住所で生活しているにもかかわらず、被控訴人があえて控訴人のみを被告としていることからもうかがわれる。

また、被控訴人は、平成五年一一月一二日になって初めて控訴人の住居所を調査したのであって、控訴人が債務の履行を遅滞して一一年近くたってから控訴人の住居所を調査しても満足すべき結果が得られないことは明らかである。

(4)  控訴の追完を認めなければ著しく正義に反すること

原判決は、明白に時効が完成した後にされた欠席裁判であり、控訴の追完を認めて控訴人の裁判を受ける権利を擁護すべき手続的正義が非常に強く要請される。

控訴が認められれば、和解等の話合いも不可能ではないが、控訴が却下されれば、強制執行を受けるほかなく、無職で資産もない控訴人の日常生活に与える損害は著しい。

(二) 控訴人は、平成一一年一〇月二二日、被控訴人から原判決の写し等を送付されて原判決の存在を知り、それから一週間以内である同月二六日に控訴の追完の申立てによって控訴を提起した。

(三) 以上のとおり、控訴人には、控訴期間内に控訴提起をすることができなかったことにつき、その責めに帰することができない事由があり、原判決を知ってから一週間以内に本件控訴を提起しているから、控訴の追完が認められるべきである。

2  被控訴人の主張

(一) 控訴人が、原判決の言渡しを知らなかったことについては、以下のとおり、その責めに帰すべき事由がある。

(1)  控訴人が住民票を移していなかったこと

被控訴人が本件訴訟を提起したのは平成五年九月三〇日であるところ、控訴人の戸籍の付票に記載されていた旧住所が同年八月六日に不現住通知により消除されていることから明らかなように、控訴人は右訴え提起の数年前から住居所不明となっていた。

控訴人は、平成一〇年一二月二日、現在の住所の届出をしたが、控訴人には被控訴人の粗暴な言動を恐れて住居所を知られたくなかったなど、新たな住所の届出をしないことを正当化する特別の事情はなかった。

(2)  控訴人の住居所を十分調査したこと

被控訴人は、公示送達の申立てをするに当たり、控訴人の住居所を十分調査した。

なお、本件訴訟において控訴人の実兄永野秋男を共同被告としなかったのは、被控訴人が昭和六一年に同人に対して保証債務の履行を求めた際に、契約書の連帯保証人欄における同人の署名押印は、控訴人が偽造したものであることが明らかになったからである。

(3)  その他の事情

控訴人は、他日判決を受けることが予想されたにもかかわらず、約一〇年間、住所及び職業が不明であったのであって、これは単なる債務逃れにすぎない。

(二) 以上のとおり、控訴人は、その責めに帰することができない事情により本件訴訟の提起、審理及び判決の言渡しを知ることができず、控訴することもできなかったとはいえないから、本件控訴の追完を認めるべきではない。

二  本案について

1  請求原因

請求原因は、原判決の事実及び理由欄(請求原因の要旨)記載のとおりであるから、これを引用する。

2  請求原因に対する認否

請求原因事実は認める。

3  抗弁-消滅時効

(一) 平成四年一二月二五日は経過した。

(二) 控訴人は、被控訴人に対し、平成一二年三月一〇日の本件口頭弁論期日において、右時効を援用するとの意思表示をした。

理由

一  控訴の適否について

1  原審及び当審における本件記録によれば、以下の事実が認められる。

(一)  被控訴人は、平成五年九月三〇日、控訴人に対し、台東簡易裁判所に本件訴訟を提起し、同年一二月一三日、被控訴人の従業員新田康雄の報告書、控訴人の住民票請求についての精算書(控訴人の住民票及び除票の請求について旧住所には該当者が見当たらない旨が記載されている。)及び控訴人の戸籍付票抄本(昭和五六年一〇月五日、旧住所に住所を定めたが、平成五年八月六日不現住通知により消除された旨の記載がある。)を提出して、控訴人につき公示送達の申立てを行った。

(二)  原裁判所は、平成五年一二月一四日、右申立てを許可し、本件訴状、証拠申出書及び甲一号証の各副本並びに口頭弁論期日呼出状が公示送達の方法で控訴人に送達され、控訴人が不出頭のまま審理が行われた。その結果、平成六年一月二七日、被控訴人勝訴の原判決が言い渡され、公示送達の方法により判決正本が送達され、送達の効力は、同月二八日に生じた。

(三)  控訴人は、平成一一年一〇月二六日、本件控訴を提起した。

2  前記1のとおり、本件控訴は、控訴期間経過後にされたものであることが明らかである。そこで、右期間を遵守しなかったことにつき、控訴人の責めに帰することができない事由があったか否かを検討する。

(一)  甲四号証ないし六号証及び乙一号証ないし八号証によれば次の事実が認められる。

(1)  控訴人は、昭和五六年一〇月五日に旧住所に住所を定め、その届出をした。

(2)  控訴人は、本件消費貸借契約を締結した昭和五七年ころ、多数の貸金業者から金銭を借入し、日々の生活費にも困窮する状況にあった。

(3)  被控訴人は、昭和五七年一一月三〇日、同年一二月二七日及び同月二八日に、控訴人に対し本件貸金債務の支払を催告し、控訴人は、これを支払う旨答えていた。

(4)  控訴人は、借入金の利息が支払えなくなり、新たな借入も困難となったことから、昭和五七年一二月二八日ころ、いわゆる「逃がし屋」に依頼して、債権者等に転居先を知らせず、区役所に転出の届出もしないまま旧住所から退去し、東京都葛飾区内の新聞販売店に住み込みで働くようになった。このため、被控訴人は、同月二九日以後、控訴人と連絡が取れなくなり、控訴人が他の債権者から請求を受けることもなくなった。

(5)  その後、控訴人は、新聞販売店に住み込んで新聞配達や新聞勧誘の仕事をして生活をし、その間二軒ほど新聞販売店を変えたが、いずれについても住所の届出はせず、旧住所については、平成五年八月六日に住民票の記載が消除された。

(6)  控訴人は、平成一〇年一一月二日、現在の住所に住所を定め、その届出をした。

(7)  控訴人は、平成一一年、新聞販売店を退職して、植木職人の仕事を手伝うようになった。

(8)  被控訴人は、控訴人の現在の住所を知り、平成一一年一〇月二〇日、控訴人に対し、原判決の写し等とともに、本件貸金債務の弁済を促す通告書を郵送し、同月二二日、控訴人に到達した。

(二)  右(一)で認定した事実によれば、控訴人は、昭和五七年一二月末、被控訴人ら多数の債権者からの追及を逃れ、事実上債務の支払を免れる目的で転居先を明らかにしないで旧住所から退去し、住民票上の住所の移転手続もしなかったものであるところ、控訴人は、被控訴人から右転居時までに三度支払の催促を受けていたのであるから、本件貸金債務の履行を遅滞したままその所在をくらませば、被控訴人が、その債権を確保する手段として訴訟を提起することは十分予測でき、しかも控訴人の所在が不明である以上その訴訟書類の送達は、公示送達の方法によるほかないことも予測できたというべきであり(なお、貸金元金が五万円と比較的少額であるとしてもこれをもって訴訟提起の可能性を予測できないとすることはできず、また、控訴人の旧住所からの転居は、最初の弁済期の直後であって、消滅時効期間の満了ははるか先のことであったから、現実の本件訴訟提起が右期間満了後であったとしても、右転居の時点における訴訟提起の可能性の予測には影響しない。)、むしろ原審の訴訟手続が公示送達の方法により進められたのは控訴人の前記のような行動そのものに起因するものというべきである。

したがって、かかる場合において、本件訴訟が提起され、控訴人が公示送達による原判決の送達を知らなかったとしても、控訴人が法定の控訴期間を遵守できなかったことにつき、控訴人の責めに帰すことのできない事由があったということはできない。

二  結論

よって、控訴人に控訴の追完を許すことはできず、本件控訴は、控訴期間経過後に提起された不適法なものであるから、これを却下することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木健太 裁判官 城内和昭 裁判官 駒田秀和)

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